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枣の種

枣の種

萧乾

国に旅立つ前に、幼なじみの同級生である友人から国際郵便で手紙が届いた。そこには、繰り返し何度もナツメの実の果核を生のままで何個か一緒に持ってきてほしいと書いてあった。荷物の場所ふさぎになるわけでもないが、何のために使うのかそれはわからなかった。

フィラデルフィアから出発する前に、私は彼女に電話をした。駅に降りると、彼女はすでに迎えに来てくれていた。
 掐指一算すれば、お互いに別れてから半世紀が経っている。みんなすでに人生の晩年である。 再会の喜びに抱き合って挨拶した後で、彼女は切実な表情で私に訊ねた。
「例のあれ、持ってきてくれた?」
私は手早くバッグの中から例のナツメの果核を取り出した。彼女はそれを手のひらに載せて受け取ったが、その様子はまるで貴重な真珠か瑪瑙でも手に取るようだった。彼女の動作は、あの頃の调皮劲で飛び跳ねていた純情な少女と何ひとつ変わっていなかった。
私はそのナツメの種をどうするのかと聞いてみたが、彼女はそれをポケットにしまい込みながら、謎めかすような表情で言った。
「ちょっと待ってたら、いずれ分かるわよ」
フィラデルフィアはまことに美しい街だった。車が動き出してから、私たちはずっと上ったり下りたりの坂道を走ったが、街全体は鮮やかな紅一色の木々で彩られていた。もしここが中国であれば、市の名前にはきっと楓城という名が付けられるにちがいないと思った。いくつか丘と平地を過ぎて、楓の林に向かい合った三階建の小ぶりな建物が見えた。彼女はそれを指差して言った。
「ほら、あそこよ。着いたわ」
車は、芝生の植え込みをぐるっと迂回して、車庫からまだ3、4メートルの所まで来ると、車庫の扉が主人を認識したようで、自動的に口を開いた。 友人はちょっと照れ臭そうに言い訳でもするように言った。この大きな家を買った頃はまだ子どもたちが学校へ行っていたが、いまはみんなそれぞれ独立している。生物化学の研究者である連れ合いは、研究所の中で栄養試験をしている、と。 彼女は私を湖が見える二階の部屋に落ち着かせた後で、私を率いて彼女の秘密の花園の現地調査に案内してくれた。場所はさほど大きくなかったが、各種の植物がよく配置され手入れが行き届いていて均整がとれていた。私たちは籬のそばの長椅子の方へ近づいて行ってそこに腰を下ろした。すぐに彼女が私に訊ねた。 「ここ、ちょっと故郷の味わいがしない?」 彼女の指す方向に促されて、私は石段の両側にある枝垂れ柳は彼女が自分の手で植えたこと、芝生の中央には蓮の池があることなどに注意して見た。彼女は深く感慨深かげな表情で私に言った。

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